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明治期の算数教育

尋常小学算法


  • ふすまから出てきた小学校の算数の教科書

  • 『算法小学 前編七』

算法

分数の計算とその応用問題が書かれています。応用問題のうち一つをこのホームページで紹介したところ、 「おもしろい!」の意見が殺到(とはいえ、身内周辺からですが...)

それで、他の問題も載せてみました。





(一)一年即三百六十五日の内晴天十六分の十三ありし時ハ雨天幾日奈りしや

 一年、すなわち365日のうち、晴天の日が13/16あったとき、雨天は何日だったでしょうか?  

 晴天でなければ、雨天か? 曇天や雪はどうする、ということを言った小学生がいたかもしれない。それはそれとして、雨天は3/16だろうから、3/16×365=68.4375  割り切れないで、どうする?

(二)三種混合の酒あり其三分の二ハ上酒其五分の一者下酒奈りといへり然る時ハ中酒者幾分調合せしや

 三種混合の酒があります。その1/3は上酒、その1/5は下酒です。このとき、中酒はいくら含まれていますか?

 いきなり小学生に酒の調合の問題か〜。上質の酒に中ランクや低ランクの酒を混ぜていたのは一般的なことか、それとも悪徳商法? 「幾分調合せしや」を「いくら含まれていますか?」と現代文に訳す自分の趣(おもむき)の無さが寂しい。

(三)若干の金あり三人尓等しく分ちし者ハ五人尓等しく分ちし者より二円多しといへり其若干の金といひしハ何程奈るや

 若干の金があります。三人で等分すると、五人で分けたときより二円多いとすると、その金額はいくらでしょうか?

 はじめ、若干の金(きん)と読んで、途中で「二円?どうやって換算したのか?」と思ってしまった。そのこともあって、「その金額はいくらでしょう?」とばかばかしく訳してしまった。「その若干の金と言いしは、いかほどなるや」はなんとかっこいいことか。「○○ちゃん」、「はい」と先生にあてられて、「....いかほどなるや」と音読したのだろうか。  ところで、この問題は難しいかも。3人と5人で等分できるということは、まずは3×5=15円として、3人で分けると一人5円、5人で分けると一人3円。5円−3円=2円  あれ、できちゃった。  ここで若干の金といって、単位に円が使われているということは、この教科書は明治時代のものではないぞ。

(四)或人若干の金を持てり最初其五分の一を出し次尓其七分の一を出せし尓尚四十六円残れりといへり然る時ハ其原金幾何奈るや

 ある人が若干のお金を持っています。最初、その1/5を出し、次に1/7を出しましたが、なお46円残っていました。このとき、はじめに持っていた金額はいくらでしょうか?

 なんだか、人の財布の中身をのぞくような、いやな感じの問題。はじめ1/5を出し、次の1/7ははじめの金額に対してか、1/5を出した残りなのか、誤解を招く問題ではある。おそらく前者が正しいのだろう。5と7の最小公倍数が35で、その1/5と1/7を足すと、23/35になる。46÷23×35=70円 が答え。 確かめ算をすると、70円もっていて、その1/5の14円を使い、70円の1/7の10円を使うと、70−14−10=46円。  これは今の大学生でも間違える問題です!

(五)或人若干の金を持てり←またか 最初其の五分の一を....  これは飽きたので、パス。

(六)某数あり之尓其三分の一と五分の一とを加へし尓二十三を得多りといへり然る時ハ其原数何程奈るや

 ある数に1/3と1/5を加えると23になります。ある数はいくらでしょう?

 応用問題の(6)にして、「ある数」とはおもしろくない。「得多り」の「多」は「た」を表します。

(七)牛馬共尓道を行く   ←先日紹介したので、省略。

(八)行軍八日尓て敵陣尓至る其四分の一を進めり然る尓金千六百四十円既尓費せりといへり其敵陣尓至る者今日より幾日奈るや又旅費の総計ハ何程奈るや

 行軍は8日間で敵陣に到着します。その1/4まで進んだときに、1640円を使いました。敵陣に到着するには何日後で、旅費の総計はいくらになりますか?

 おお、実践的、というか、実戦的! 「敵」てだれよ?  意外に答えは簡単:8×3/4=6   あと6日。   旅費の総計って、 残り6日の総計なのか、それとも全行程(8日)の総計なのか?  前者なら 1640×3 後者なら1640×4   「費せり」と言い、最後に「旅費」が出てくるのはまずいんじゃないか。はじめに何の金か分からん。  しかし、敵陣に行くまでに旅費を使うという状況がイメージできない。途中でお店屋さんでもあるのか?

まだまだ続くが、つぎで最後にしよう。


(九)一樽の酒(←また酒か?)三斗七升五合其価金三円五十銭奈り然れども其内尓水七升五合誤て混和したるといへり時ハ全量幾分の割合尓当るやまた其価者幾何尓して可奈るや

 一樽の酒、3斗7升5合の価格は3円50銭です。しかし、その内、水7升5合を誤って混ぜたとしたら、その割合は全体の量の幾らになりますか? また、その価格はいくらですか?

 苦しまぎれに作った問題か? 誤って水を混ぜる? まあ、それで混和した量の割合を求めるんだから、0.075÷0.375 (75÷375でもいい)=0.2  ゆえに、全体の0.2(=20%)の割合が酒でなく水ということになる。その次が問題。0.2が水だから、0.8は酒。3円50銭に0.8をかけ算して売るって、良いのか? そんなもん、売り物になるのかい? ええ。

こんな問題ばっかり使ってたら、今の時代は「出題ミス」っていわれるかも。 しかし、問題に牛馬や田、酒の調合などが出てきたり、行軍の問題があったり、時代を反映している史料でした。




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算術科教案


  • 明治25年11月1日 火曜日起案

  • ある家の文書調査をしていたときに、見つけた一点!

算法

明治25年11月1日(火)にある尋常小学校の雇(やとい)教師が考えた算数の問題。

    『算術科教案』

明治時代の小学生はどんな内容を学んでいたのだろうか?

  −−−それが今、明らかになる。


文書が痛んでいて読みにくかったですが、何とか解読しました。


(一)柿ノ木三本ト二本ハ幾本ナリや

  柿の木3本と2本は、(合わせて)いくらですか?

 いきなり簡単な足し算。こんな計算をする小学生は「柿」とか「幾本」という漢字が読めたのか....?

     3 + 2 = 5    答え 5本


(二)柿ノ木三本ニ各二十二顆宛結ヒシトキ□總計ハ何ナルや
   □は破損して読めないところです。  

柿の木3本にそれぞれ22個の実がなったとき、柿は全部でいくつですか?

 全部足し算かと思ったが、今度はかけ算、それも二桁と一桁のかけ算。こんな問題を解く生徒に(一)の問題は簡単過ぎると思うが...。

   3 × 22 = 66   答え 66個


(三)柿ノ木三本ニ各二十二顆宛結ヒ其一顆ノ価五厘其金總計幾何ナルや

 柿の木3本にそれぞれ22個の実がなって、一つの価格を5厘とすると、合計はいくらになりますか?

 前半は(二)と同じ問題ではないか。変えればいいのに....。

  3 × 22 = 66

  66 × 5 = 330          答え 330厘 → 33銭


(一)柿ノ木五本ノ中二本実ヲ摘取リシトキハ摘マザル木□□リや」
  □が破損して読めないですが...  

柿の木が5本あり、このうち2本の実を摘(つ)んだとき、摘まない木は何本ですか?

 問題の最後が読めませんが、たぶん引き算の問題でしょう。問題番号が(四)ではなく、(一)に戻っているので。

  5 − 2 = 3       答え 3本


(一)柿四个ト一个ハ幾本ナリや

  柿4コと1コは、(合わせて)いくらですか?

   4 + 1 = 5    答え 5コ

  なんか、おもしろくないですねえ。


(二)柿四个ト一个ト八个トアリ毎一个価四厘セバ總計幾何ナルや

 柿が4コと1コと8コあります。1個の価格を4厘とすると、合計でいくらですか?

 「4コと1コと8コあります」、なんて、言うか? 3つを足す足し算をさせたいんだろうが...。

  4 + 1 + 8 = 13

 13 × 4 = 52           答え 52厘 → 5銭2厘


(三)柿ノ木五本ニ各六十四个宛結実セシ□二百七十八个摘ミトリシトキハ残リ□□幾个アリや

 柿の木5本それぞれに64コが実っています。このうち、278コを摘んだとき、残りはいくらですか?

 結構、難しい計算になってきた。

  5 × 64 = 320   

  320 − 278 = 42         答え 42コ


 当時の小学生には柿は身近だったんだろうが、実際には使えない問題。5本の木に64個つづ柿がなる、ということはないだろうし。




         え〜、もう終わりかい?


         算術科教案って...いったい....。



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